177条では不動産の物権変動について考えました。178条では物権の変動と対抗要件です。
民法 178条
条文
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
引用:民法
解説
簡潔ですね。簡潔ですがやはり第三者とは?と言ったことが問題になります。
不動産の場合は対抗要件として登記が必要でした。動産の場合は引き渡しが対抗要件となります。
引き渡しとは
引き渡しとはどのような事がなされた状態でしょう?
現実に動産を引き渡す。これは引き渡しであろうことは想像できますが他にもあります。
動産の移動 | |
現実の引き渡し:182条1項 | あり |
簡易の引き渡し:182条2項 | 無 |
占有改定:183条 | 無 |
指図による占有移転:184条 | 無 |
先の占有権の条文で解説しますのでここでは詳しく解説はしませんが、意思の合致がある物権変動では引き渡しが第三者の対抗要件となっています。
引き渡しが現実に行われず、譲受人の手元に動産が無くても対抗力を持つことが出来るとされる引き渡し方もあります。
占有権の条文を取り上げたわけ
192条に即時取得というものが出てきます。
これは動産取引の安全を主眼に設けられた規定です。
条文
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
引用:民法
譲渡人をA、譲受人をBとすると前提として、通常の所有権の移転では意思の合致がありAからBに所有権が移動する。
即時取得と別建てで規定が有るという事は、動産取引の安全のために上記の前提以外(譲渡人が無権利者である)の場合と言う事です。
条文のままの要件を満たす(取引行為、平穏かつ公然と占有、善意無過失)場合は権利を取得するとなっています。
この即時取得は引き渡し方法が、占有の状態に変更をきたすような場合とされています。
この意味は即時取得は占有改定では権利を取得できないという事です。
178条の物権変動の第三者対抗要件の引き渡し:4種類の引き渡しが該当
192条の即時取得でいう「行使する権利を取得する」事に必要な占有:占有改定は除く
となります。ここが混同しやすく問題になった場合にどっちだったか迷ったりします。
基本は、物権変動(この場合は権利者による有効な取引)は意思表示で発生し、第三者対抗は引き渡し(4種類)と言う部分をしっかり押さえておくことが重要です。
混同しやすい過去問
このような形で出された過去問があります。
即時取得が成立するためには占有の取得が必要であるが、この占有の取得には、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさない、占有改定による占有の取得は含まれない。
引用:一般財団法人行政書士試験研究センター 令和 2 年度 行政書士試験問題 問28 肢ア
所有権の移動と占有権の違いを押さえておかないと、こんな問題が出た場合に、あれ?どうだったかな?となります。
大きな違いは、即時取得は無権利者からの取引である事と占有改定などによる占有の取得は含まれない事です。これを動産の物権変動と混同すると間違えます。
動産の物権変動時の第三者とは?
動産物権の変動時の第三者も不動産の物権変動の第三者と同意であるとされています。
移動できる動産ならではの事象として預かるということがあります。
寄託です。契約により有償の場合もあれば無償の場合もあります。
寄託者は第三者に当たりません。
寄託者が第三者に当たらない理由
預かってるという事は引き渡されてますよね?物件が変動して寄託者には対抗力が有るのでは?と思った方居ると思います。
これ実は単純な話だったりします。
物権の変動は物の所有権を渡す受け取るという意思の合致で変動します。
寄託は物の所有権を取得する意思ではなくあくまで預かると言う意思で行われる契約だからです。そこに有るのは所有の意思ではないです。
AさんがBさんに甲を寄託しました。Bさんは甲を預かっています
AさんがCさんに甲を譲渡しました。Cさんに甲は引き渡されていません。
→Cさんは甲の引き渡しがされていませんが対抗できます。
と言う事になります。
預けた者以外に返還を要求する者がいた場合寄託物を返還する際に誰に返せばいいかが問題になる場合があります。債権編の寄託(657条~)に多くの条文があります。
ここでは踏み込みませんが、誰に返すか?、誰に通知するのか?が定められていますので寄託者が迷うような状態になった場合の規定が定められているとだけ記憶しておいてください。
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